研究開発座談会

研究開発座談会 SPECIAL INTERVIEW

人材と技術を育て挑戦につなげる
住友ベークライトの研究開発力
技術の厚みと展開力が強み

大西
執行役員
研究開発本部長
大西 治
先端材料研究所長 高本 真

先端材料研究所長
高本 真
情報通信材料研究所長 森 弘就

情報通信材料研究所長
森 弘就

技術の厚みと展開力が強み

森:

住友ベークライトの技術的な強みとして、有機ポリマーの配合設計や、有機と無機の複合技術が非常に優れている点が挙げられます。それにより、単一素材では実現できない付加価値を持つ製品が生まれ、利益に結びついているのだと考えています。

大西:

私も同感で、当社の強みの一つは、合成や樹脂配合といった素材設計から加工までを一貫して自社で行える点です。また、製品設計の中核をなす樹脂や触媒などを自社で合成・加工できる点は、他社との大きな差別化のポイントだと考えています。さらに、半導体を主とした電子材料、自動車や航空機、医療や医薬分野、食品、建築やエネルギーといった非常に多くの分野に、製品を展開していることも強みです。

高本:

たとえばパワーモジュールに使用される放熱絶縁シート材料は、ベースとなる素材を先端材料研究所で設計し、応用研究所でその素材を用いて商品を開発するなど、各研究所がそれぞれの強みを活かすことで他社が真似できない独自性を実現できています。また、事業領域が広いということは、それだけ幅広い研究開発の知見があるということです。近年では、その経験値を社内に蓄積し、データを効果的に活用するマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の取り組みにより、迅速かつ高品質な製品開発が可能になっています。

大西 治
執行役員
研究開発本部長 R&D企画推進部長
大西 治
1997年入社。HPP技術開発研究所、先端材料研究所長などを経て、2025年より研究開発本部長およびR&D企画推進部長。新テーマに関するフィジビリティースタディ、各応用研究所における技術課題の解消、知的財産を管轄する。

多様なプログラムで自律的な人材の育成を後押し

大西:

私が人材育成で重視しているのは、イノベーションを生み出せる人材の創出です。過去の技術を受け継ぐことも大切ですが、そこに自分なりのエッセンスを加えたり、まったく新しい領域に挑戦したりすることで、新たな価値が生まれます。こうした志を持つ開発者に自らテーマを提案できる力をつけてもらいたいですね。また、プロの開発者として課題を見極め、自身の経験をもとにテーマを設定し、思いを込めて取り組む、そういった自律性を育むことも重要です。研究開発本部では新製品開発の活性化に向けて「SBinno」というプログラムを10年ほど継続しています。これは若手開発者が自ら提案したテーマを1年かけて育てるもので、各研究所からの参加者とともに挑戦を続けています。

森:

開発者の多くは若く、革新的な開発に意欲的です。そのため現在は、従来のように試行錯誤を重ねる手探りの研究から、MIやDXを活用し、分子設計段階から網羅的に検証するスタイルが主流になりつつあります。情報通信材料研究所でも、データサイエンティストを育成する社内講座に積極的に参加し、スキルを持つ人材の育成に注力しています。

先端材料研究所長 高本 真
先端材料研究所長
高本 真
2003年入社。情報通信材料研究所長を経験後、2025年より先端材料研究所長。最先端素材の開発に取り組む。

高本:

若手開発者と1on1の面談をすると、やはり「社会に貢献する製品開発に携わりたい」という声が多いです。住友ベークライトには独自のイノベーションマネジメントシステム(IMS)というしくみがあり、研究テーマを立ち上げる際に、市場性や競争優位性、売上や利益の見通しなどを整理しながら企画できるよう支援しています。自分の成果が社会に影響を与えたと実感することは、やりがいや成長の原動力になるため、やる気はあるけれども方法がわからないという人に道筋を示すことで、一緒に頑張っていけたらと思っています。

大西:

「SBinno」で発芽したアイデアを、IMSを通して木に育てていくイメージですね。ツールは揃っているので、あとはそれをどのように意識向上や実際の成果につなげるかが、私たちマネジャーの腕の見せどころです。

森:

そして、研究所間の交流も人材育成や組織の活性化には不可欠です。長く同じ研究所にいると視野が狭くなりがちなので、他部署の研究を知ることで新たな発想が生まれます。技術討論会のような交流会や人材の相互交流によって開発者が知見を広げ、新しいアイデアが生まれてくることを期待しています。

部門や組織を超えたOne Sumibeの協業体制により、新たな価値を創出

大西:

交流という点では、各研究所の所長は四半期に一度、研究所長会議でさまざまな課題を議論しています。また、応用研究所ごとに月1回のミーティングを設けており、新規事業の創出や既存事業の拡大について話し合っています。ちなみに、本日集まったこの3名は、互いのポジションを引き継ぎながらキャリアを重ねてきた間柄でもあります。

高本:

研究企画、基礎研究、応用研究という各段階を経験することで、製品開発全体の流れを把握できる意味で、非常に有意義なことだと感じています。

大西:

こうした部門ごとの連携は以前からありましたが、藤原社長(現会長)の時代に掲げたOne Sumibeの方針によって近年さらに活性化しており、現場レベルで気軽にコミュニケーションが取れる風通しの良い組織になっています。

森:

その流れは外部連携にも波及しています。今年から東北大学と共同で「次世代半導体向け素材・プロセス共創研究所」を設立し、大学の知見を活かしながら、顧客ニーズの本質を探り、技術開発を進める取り組みを始めました。

情報通信材料研究所長 森 弘就
情報通信材料研究所長
森 弘就
2002年入社。入社時より電子デバイス材料の研究所に所属。2023年に研究開発本部R&D企画推進部長に就任。現在は情報通信材料研究所長として、半導体用封止材やコーティング材料、基板材料、モビリティ用材料などの研究開発に携わる。

高本:

自社にないものは積極的に外部を活用しようという発想ですね。それは最先端の分析装置の場合もありますし、また、知見が不足している分野での協業の場合もありますが、専門性の高いパートナー企業や大学と協力することでより早くゴールに辿り着けると考えています。

大西:

R&D企画推進部としては、こうした社内外のマッチングを支援することが役割です。森さんの研究所で困りごとがあれば、社内のどの部門が対応できるかを調査しますし、高本さんの研究所で必要な技術があれば外部の企業や大学を紹介することもできます。日頃の信頼関係があるからこそ、こうした連携がスムーズに進み、新たな価値を生み出しやすくなっているのは間違いありません。

研究開発分野の注力領域とイノベーション創出への取り組みとは

大西:

全社的には、製品・事業のポートフォリオを見直し、経営方針としてICT、モビリティ、ヘルスケアの三領域に注力する方向性を打ち出しています。私の役割はこうした分野においてイノベーションを起こし、新たな製品や事業を創出することです。一方で5年後、10年後の新事業創出を見据えた、新技術の探索も忘れていません。R&D企画推進部では、マッチング機能の強化や外部連携のほか、ベンチャーキャピタルへの投資も進めています。これは世界中の有望な新素材を自社の技術基盤に取り込み、独自の商品開発につなげることが狙いです。

高本:

先端材料研究所では、事業部や応用研究所からのテーマに基づいた開発と、研究所発の独自研究という二本立てで進めています。当社グループの中期目標やその先の2030年を見据えた際には、基礎研究所発のより大きなインパクトを持つ新製品やコア技術の創出が不可欠です。稲垣副社長は「ホームランを打てるような技術を育てたい」と話していましたが、それを狙って実現するには有望な種を継続的に仕込んでいく必要があります。そのために私たちも、基礎開発のポートフォリオを変化させ、全社の方向性に合致したテーマに注力していきます。環境対応の点では、モビリティ分野で使われ、廃棄時は分解しやすい「易解体性」のポリマーを開発中です。また、植物由来原料によるプラスチック開発も合弁会社と共同で進めています。

森:

情報通信材料研究所では、封止材、接着剤、ウェハー保護材、基板材料という4製品を柱に据えてきました。しかし、素材の多様化が進む半導体業界において、日々、新しい技術が生まれており、その流れを新たなビジネスにつなげていくことが必要です。そこで現在は、新商品開発プログラムや社内外の協業といったアプローチを強化しています。中でも注力しているのは、液状封止材です。これまでは固形封止材が主流でしたが、液状化でより狭小なスペースへの充填が可能になる付加価値の高い製品です。環境を意識した取り組みでは、これまでマイナス20度で保管していた材料を常温保存できるようにすることで、CO2排出とエネルギー消費の削減を目指しています。ライフサイクルアセスメント(LCA)認定制度への、研究所メンバーや工場関係者の取得意欲も高く、研究開発を後押ししています。

大西:

多くの事業を持つ当社グループでは、LCA認定者やSDGs認定製品の拡大は必須だと考えています。研究開発本部では、有望な研究テーマの全社プロジェクト化も進めており、今年度は水素製造機能膜量産準備プロジェクトチームを4月に発足させました。迅速な事業化を実現できるように支援するとともに、今後も環境対応力の向上を図っていく考えです。

挑戦の連鎖を生む組織風土づくりのためリーダーができること

森:

新製品や新事業の種出しは、組織の持続的成長において非常に重要です。この種が不足すると、やがて製品開発が細り、イノベーションが生まれなくなってしまいます。種を出せる人材を育てるために、私は部下に対して、会社や部門の方向性を明確に伝えることを心がけています。それにより、部下は会社の期待と自分の仕事のつながりを理解し、日常業務に加えて新たなチャレンジにも取り組みやすくなると思います。理想を言えば通常業務の1~2週間に1回程度、半日ほどアイデアを皆で自由に話し合う場を設けられればベストです。そこで新製品の種を生む機会を増やし、会社全体の成長につなげていきたいです。

高本:

私はこの4月から先端材料研究所に異動になりましたが、その際に研究所員の前でまず「心理的安全性を大切にするので、遠慮なく意見を言ってください」と伝えました。これは私がリーダーとして、一見突飛に思える意見でも否定せず耳を傾けることを大切にしたいからです。今後はこうした土壌をしっかりつくった上で、まだ社会に顕在化していないニーズをアカデミアや協力企業と掘り起こしていきたいです。また、製品開発においても、仕様が固まる前の企画・設計段階から関与することで、競争優位なポジションができるため、その仕掛けやしくみづくりに貢献し続けたいです。

大西:

私自身のキャリアを振り返って最もやりがいを感じたのは、新しい事業や製品の立ち上げに携わっていた時期ですが、今はむしろ、そうしたチャレンジに前向きに取り組む若手社員を一人でも多く育てたいと思っています。即効性のある施策はなかなかありませんが、やはり否定されない風土づくりは重要です。当社の人事制度では、近年はチャレンジ度が評価に加味されるようになり、挑戦の風土が浸透しつつあります。この文化を根付かせるには、私たちを含めた部門長が新しい発想を一緒に育て、意欲の高い人材を引き上げる存在でなければなりません。彼らが責任ある役割を担い、成功体験を積み重ねることで、社内に挑戦の連鎖が生まれるはずです。そうした循環が、やがては湧き上がるような成果につながると信じています。

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