研究開発本部長
R&D企画推進部長
DIALOGUE
市場起点でテーマを創出し、顧客との共創によって新たな価値を生み出す―その実現に向けて、研究開発体制はどのように進化しているのか。
本対談では、住友ベークライト研究開発本部長の大西と、プロメラスのSkilskyjゼネラルマネージャーが、
グローバルR&Dの意義と成果、そして将来展望について語ります。
大西:
プロメラスは2001年に住友ベークライトグループの一員になりました。半導体・先端材料分野では、設計開発の主導権を米国企業が握るケースが多く、最先端の技術トレンドを把握するには現地での活動が不可欠です。特に米国にはスタートアップ企業が数多く存在し、新たな技術やビジネスの芽が次々と生まれています。こうした環境の中で顧客と直接向き合い、ニーズの兆しをいち早く捉えることが、研究開発のスピードと精度を高めるうえで非常に重要です。
Skilskyj:
おっしゃる通りです。グローバル企業の研究開発は各地域に分散しており、それぞれの拠点が特定の技術領域に特化しています。その中で、現地の研究者や顧客と直接対話することは、新たな視点やビジネス機会を得るうえで大切です。プロメラスでは現在、キャッチした市場ニーズに独自のポリノルボルネン(以下、PNB)技術を加え、アニオン交換膜、半導体製造・パッケージング、ディスプレイ、バッテリーといった幅広い分野への応用を進めています。
また、プロメラスが拠点を置くオハイオ州アクロンは、長年ポリマー材料の研究開発の中心地として発展してきました。大学や企業、行政が連携することで、基礎研究から応用開発、さらには商業化までを支えるネットワークが構築されていることは、研究開発にとって大きな強みです。
大西:
プロメラスとアクロン大学は関係が深く、過去にはある特殊な測定が必要になった際に、大学設備をお借りしたこともありました。研究者や顧客との距離が近いことで、単なる製品提供にとどまらず、ともに課題を解決し、新たな価値を創り出す共創型の研究開発を実現できていると感じています。
Skilskyj:
プロメラスの住友ベークライトグループでの位置付けとしては、北米における先端材料の研究開発ハブとして、市場ニーズを起点に新たな開発テーマを創出する役割を担っています。顧客やスタートアップ、学術機関と密接に連携しながら、市場と技術の両面から得られる初期情報を蓄積し、それを具体的な開発プログラムへと落とし込んでいます。創出されたテーマは、住友ベークライトグループの長期的な材料戦略にも大きく寄与しています。
加えて、顧客との共同評価も重要な機能です。顧客の業務プロセスやシステムを完全に把握することは簡単ではありませんが、実際の使用環境に近い条件で評価を行い、フィードバックを得ながら改良を進めることで、開発リスクを低減し、採用までのスピードを高めることができます。
大西:
プロメラスは日本の先端材料研究所やバイオ・サイエンス研究所などのコーポレート研究所と同様に、研究の戦略拠点として機能しているということですね。プロメラスが持つ高度な合成技術と日本側の評価・プロセス技術を融合することで、より高度な材料開発が可能になり、技術課題の解決につながっています。
また、日本には半導体材料に強みを持つ企業が多く存在しており、プロメラスの技術を応用展開することで、新たな素材開発や事業創出の可能性が広がります。特にモノマー設計やポリマー化技術といった基盤領域でプロメラスの技術は先端を走っており、研究テーマの技術競争力強化に加え、知財戦略の高度化にも貢献していると考えています。
Skilskyj:
ありがとうございます。市場起点でのテーマ設定は、プロメラスの大きな役割の一つです。顧客からのフィードバックや市場の洞察を組み合わせ、実用性と商業性を兼ね備えたテーマを定義することは、私たちの得意分野であり、今後も研究開発の成功のために精度を高めていきたいと思っています。
大西:
グローバルな研究連携の価値は、技術面と人材育成の2つがあります。プロメラスのメンバーは年に複数回来日していますし、加えてオンラインでの定期的なディスカッションも継続しています。こうした連携により、フィジビリティースタディの精度が高まり、技術課題の解決スピードも向上しています。また、日本からも2年ごとに研究者を派遣し、彼らがグローバルな環境で技術を磨く機会を提供しています。
Skilskyj:
プロメラスでは日本のコーポレート研究所などと共同でプロジェクトレビューを行い、現場レベルで課題の共有と解決策の検討を進めています。異なる文化や発想に触れることは視野を広げてくれますし、結果として住友ベークライト全体の競争力向上に貢献できているのではないでしょうか。
大西:
振り返れば私自身も2004年にプロメラスに出向し、研究開発成果の工業化に取り組みました。その際、Skilskyjさんは私の意図を的確に理解し、現地のチームに反映してくれました。顧客起点で物事を考え、課題解決に取り組む姿勢に強い信頼を感じました。
Skilskyj:
よく覚えています。大西さんは当時から「なぜ」を繰り返し問い、本質を追求されていましたね。顧客のために最適な解決策を導き出そうとする姿勢が非常に印象的でした。
大西:
日本と米国では文化や発想が異なりますが、こうした相互理解があるからこそ、その違いが強みになり、新たなイノベーションが生まれるのだと思います。その意味でプロメラスは、グループ全体の研究開発を加速させる存在と言えます。
Skilskyj:
私たちが研究から製品化までの橋渡し役を担えるのは、長期的な人材交流によって築かれた信頼関係が基盤にあるからです。研究、評価、生産の各段階をつなぐことで、商業化までのプロセスを円滑に進めるとともに、本社の知財や生産基盤と連携しながら、研究成果を実用的な形へと確実に落とし込んでいきます。今後もグローバルな連携をさらに深化させ、新たな価値を創出していきたいと考えています。
Skilskyj:
先ほどの新たな価値という観点で言えば、その代表例が私たちのPNB技術です。最大の特徴は、モノマー設計からポリマー構造、さらに用途に応じた機能発現に至るまで制御できる点にあります。独自の付加重合技術により、熱安定性や化学耐性、機械特性などを、用途に応じて付与できる設計自由度の高さを有しています。この基盤技術を活用したPNB材料は、光導波路やCOPLUS®※2 といった技術に展開され、半導体材料や電子デバイス分野で広く活用されています。
大西:
こうした技術は、当社グループ内でも高集積半導体や光回路関連材料、高精細ディスプレイなどの分野で応用展開が進められており、基盤技術の強化に大きく寄与しています。
さらに、PNBの特性は、現在私たちが直面している社会課題とも親和性が高いと考えています。とりわけエネルギー分野では、水素エネルギーの活用が注目されていますが、プロメラスの技術はその実現に貢献する材料として期待されています。その一つが、グリーン水素製造装置向けのアニオン交換膜(以下、AEM)※3 です。
Skilskyj:
AEMはまさに、今後の成長が期待される分野の一つですね。プロメラスの材料技術を基盤として、すでに商業化を見据えた開発が進んでいます。PNBを膜材として用いることで、イオン導電性や化学的安定性、耐久性に優れた性能を実現しています。また、PFASフリー※4 である点も、環境対応の観点から重要な特長です。
さらに、AEM電解技術は従来のプロトン交換膜(PEM)
とは異なり、貴金属を必要としません。再生可能エネルギーとの親和性も高く、将来的には水素製造の低コスト化に大きく貢献する可能性があります。クリーン燃料やアンモニア、肥料の生産、エネルギー貯蔵や産業の脱炭素化においても、重要な役割を果たすと考えています。
大西:
水素社会の実現には不確実性もありますが、さまざまな技術の中でAEMは有力な選択肢の一つです。当社としても、SDGsに代表される社会課題の解決を重要なテーマと位置付けており、水素エネルギー分野への取り組みは当社のビジョンにも合致しています。事業を通じて社会に貢献するという観点からも、非常に意義の大きい領域であり、将来の成長を支える柱になると期待しています。
大西:
当社における研究開発は単に実験を行うだけではなく、社会課題を起点にテーマを企画し、実現可能性を高めていく一連のプロセスです。そのためには、市場や技術の動向を的確に捉えることが不可欠です。当社ではアメリカやヨーロッパに技術駐在員を配置し、現地での最新情報を収集しています。スタートアップやアカデミアとの連携を通じて、次に取り組むべきテーマを探索しています。
Skilskyj:
やはり現地での情報収集は、テーマ設定の精度向上には欠かせません。私たちは引き続き、北米市場におけるプレゼンスを高め、顧客やスタートアップ、学術機関との連携を強化したいと考えています。技術会議や論文発表、特許活動などを通じて新たな機会を創出し、研究開発の幅を広げていきます。
大西:
たとえばAI半導体分野では、性能向上だけでなく消費電力の低減が大きな社会課題となっています。こうしたニーズを現地で把握し、複数のソリューションを検討した上で、プロメラスと連携して技術検証を進めています。マーケット側が高精度なテーマを設定し、それを研究開発部門が迅速に具現化する。このサイクルをいかに高速化するかが重要です。
Skilskyj:
私はそのサイクルを機能させる第一歩は、若手研究者の交流だと考えています。異なる地域間での研究経験は視野を広げ、新たな発想やイノベーションを生み出します。加えて、グローバルチームとしての一体感を高めるためには、継続的なコミュニケーションが不可欠です。オンラインでのやり取りに加え、対面での議論はより深い理解と信頼関係を構築してくれます。最終的には、それがより良い製品の創出につながると信じています。
大西:
人材交流とコミュニケーションの重要性は、当社でも強く認識しています。実際に2017年からは「One
Sumibe活動」を推進し、組織横断での連携強化を図ってきました。研究所間でも定期的に情報交換の場を設け、技術課題や新たなテーマについて議論しています。こうした取り組みによって、グループ内のネットワークが強化され、共創の基盤が着実に広がっています。
プロメラスが生み出す基盤技術は応用範囲が広く、グローバル展開を見据えたものです。そのため、日本の研究所にとっても大きな刺激となり、新たな研究テーマの創出につながっています。今後は、研究開発をプロメラス、プロセス開発を当社が担う役割分担のもと、両者の連携をさらに深化させていきます。そして、創出された技術を確実に事業化へとつなげることで、グループ全体の価値を一緒に最大化していきましょう。
Promerus, LLC(プロメラス)の概要: 2001年にグッドリッチ社(米国)のノルボルネン樹脂研究部門を買収し、住友ベークライト株式会社の100%子会社として設立。当社グループの北米拠点として電子・光電子・半導体用途向けのポリ環式オレフィン※1 およびポリノルボルネン系材料を中心とした先端ポリマー材料の研究、開発、商業化を担う。2020年以降はオハイオ州アクロンに拠点を移し、研究・技術主導型の組織として、高性能用途および新興用途向けの次世代スペシャリティポリマーの開発に注力する。所在地:アメリカ合衆国オハイオ州アクロン、従業員数:33名 (2026年3月末時点)。
※1 環状構造を持つオレフィンを主成分とする耐熱性、高透明、低吸水、溶剤可溶性が特長のポリマー
※2 COPLUS®の詳細はこちらから。
※3 水素製造装置用アニオン交換膜の詳細はこちらから。
※4 製品の製造過程で、環境や人体への影響が懸念される「有機フッ素化合物(PFAS)」を使用しない、または含まないこと。
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