「パワーモジュールの未来をつくる──住友ベークライトPeSの挑戦」(後編)

「パワーモジュールの未来をつくる──住友ベークライトPeSの挑戦」(後編)

ご紹介

2025年4月に新設された「パワーエレクトロニクスソリューション開発部(PeS)」。その前身であるNeAプロジェクトの成果を土台に、事業部の垣根を越えたトータルソリューションの提供を目指す組織として歩み始めました。本記事では前後編にわたり、PeSの立ち上げにかかわったメンバーのインタビューを掲載。 後編では、PeSの価値、そして未来について語っています。

尖った技術とトータルソリューション

―― PeSが提供する「尖った樹脂技術」とはどのようなものでしょうか?

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パワーエレクトロニクスソリューション開発部長
西川 敦准
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西川:

「尖った樹脂技術の組み合わせの妙」とは、樹脂の開発中に生まれるユニークな特徴を活かすことを意味しています。開発過程では、いわゆる“尖った”面白い技術が次々と生まれますが、それぞれに弱点もあります。素材としては魅力的でも、この段階でお客様に提案すると、どうしても弱点に目が向きがちで、改良を重ねるうちに尖った魅力が失われてしまうこともあります。 そこで私たちは、弱点を他の材料で補いながら、強みを最大限に引き出す――その絶妙な組み合わせこそが「妙」なのです。

料理でも、スパイス単体では味が分かりにくくても、料理に加えることで驚くほど良い働きをすることがあります。私たちの提案も同じイメージです。樹脂だけを持って行くのではなく、それを使って「料理」した形を見せることで、お客様にも魅力が伝わりやすくなります。

―― 尖ったものはそのままにして、組み合わせで活かしていくという考え方に至った経緯を教えてください。

西川:

それはプロジェクトでの経験からです。お客様の製品を設計段階から理解していく中で、「この組み合わせならうまくいく」と考えるようになりました。私たちだからこそ気づける、樹脂同士の組み合わせです。 例えば、従来のセラミックと銅は伸縮率が異なるため反ってしまい、板に取り付ける際には厚塗りが必要でした。セラミック用接着剤は本来熱伝導率が高いものの、厚く塗るとロスが生じます。

一方、私たちの樹脂は熱伝導率こそセラミックより低いものの、反りません。そのため薄くしっかり接着でき、ペタッと簡単に付きます。薄く塗布できることで放熱性も遜色なく、非常に優れた構造が実現できます。封止材、絶縁シート、そしてセミシンタリング材を組み合わせることで、現在のイチオシの構造が完成しました。 この例で言えば、「反らないが熱伝導率が低い」という課題がありました。従来は熱伝導率を上げようと改良を重ね、別の問題に悩まされていました。しかし発想を変え、「熱伝導率はそのままに、接着方法を工夫すれば全体性能は変わらない」と考え、提案することでお客様にご納得いただけるようになったのです。

 

例えば、3つの材料をまとめてご提案し、採用いただくと、お客様にとっても手間が省けて楽になります。さらに、セットで導入いただくことで製品全体の性能をより高めることができます。
当社はお客様の製品づくりのプロセスも深く理解しています。通常、外部からはその製造プロセスは見えません。しかし、当社は自社で製品を開発し、提案しているため、どの工程でお客様が苦労されているかを把握できます。こうした理解が深まることで、より的確な提案が可能になります。だからこそ、「この工程は大変でしょう。当社のこの材料を使えばもっと楽になりますよ」といった、プロセスの観点からの提案ができるのです。

吉川:

当社の強みは「トータルソリューション」にあります。以前は、半導体パッケージ用途の封止材料が主力製品でした。今も封止材が当社の中心であることに変わりはありませんが、PeSという組織ができたことで、封止材に加え、絶縁シートやセミシンタリング材など、複数の製品を組み合わせて提案できるようになりました。これまでは封止材について当社製品が採用されることが多くありましたが、その上下の部分、例えば接合に使うセミシンタリング材などは、お客様からご要望をいただいて初めて「それなら、このような製品をご紹介できます」と対応する形でした。

パワーエレクトロニクスソリューション開発部
吉川 雄斗

 

先週も、自動車メーカーのお客様と打ち合わせをした際、インバーターに使われるパワーモジュールについて当社の樹脂製品をご紹介しました。PeSが設立される前は、「セミシンタリング材があり、冷却器にこういう形で接着できます」といった詳細な提案は、少なくとも私には難しかったのです。
ところが今では、お客様先で「封止材以外に、この冷却器は現在どのように取り付けていますか」と質問し、「はんだで付けていますが、いくつか課題があります」といった声を伺ったうえで、「それなら、当社にはセミシンタリング材という製品もあり、この課題解決に貢献できます。ぜひ評価してみませんか」と具体的な提案ができるようになりました。これこそが、PeSが生まれたことで実現したトータルソリューションの真価であり、その存在意義だと考えています。

西川:

これまでの営業スタイルは、封止材、シンタリング材、放熱材料といった製品ごとに担当が分かれていたため、お客様にとって窓口が複数ありました。
今では、一人の担当者が訪問すれば、営業でありながらパワーモジュールの内部構造まで詳しく説明し、多角的な提案ができます。これは単なる「材料の営業」ではなく、「パワーモジュールという領域の営業」へと進化したと言えるのではないでしょうか。

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――― 高熱伝導性銀ペーストや液状エポキシなど、注目製品の特徴を教えてください。

西川:

まず封止材については、製品の動作温度が上昇しており、従来は200℃以下だったものが、今では250℃や300℃といった高温に対応する必要があります。放熱シートについても、「もっと熱伝導率を上げてほしい」というご要望は常にあります。このように、熱に関する要求はますます厳しくなっており、樹脂の設計は非常に難しくなっています。
それでも私たちは、まず「尖ったものを作る」という方針で開発を進めています。面白い特徴を持つ製品を生み出し、まず社内で評価する体制を整えました。従来は、面白いものができたらすぐにお客様に評価をお願いしていましたが、社内評価を経ることで、改良点や“組み合わせの妙”を議論し、次のステップに進めるようになったのです。
個別の製品単体で見れば厳しい状況でも、尖った特徴を活かし、社内の知見を結集して組み合わせることで、新たな価値を生み出せるようになりました。
技術者の間ではよく「お客様を評価屋として使うな」と言われます。これは、お客様も評価に多くの工数をかけてくださるにもかかわらず、最終的なフィードバックが「良いか悪いか」だけで終わってしまうことが少なくないためです。それでは次の開発につながりにくいのです。
そこで当社では、まず社内で完成度を高め、実証データを揃えたうえで提案する体制を整えました。評価の段階で当社の裏付けがあることで、お客様も納得し、フィードバックもより具体的で深いものになります。それが次の開発に確実に活きてきます。

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組織横断の挑戦と未来

―― PeSが事業部の垣根を越えて取り組むことで、どんな変化がありましたか?

西川:

他の事業部で面白い素材、例えばコーティング材料やフィルムが開発されると、マーケティングの過程で「これはパワーモジュールに使えるのでは?」という相談がPeSに持ち込まれるようになりました。
それを受けて、私たちの知見から「この使い方なら可能性がある」「もう少し耐熱性を上げた方が良いが、現状でも試す価値はある」といった議論ができます。以前なら、その相談は直接お客様に行っていたかもしれませんが、間に私たちが入ることで、より戦略的な提案ができるようになりました。

お客様にとっても、単に素材を提示されるより、その背景にある理屈やロジックが明確な方が受け入れやすい。その結果、質の高いフィードバックが返ってきて、開発がスムーズに進みます。こうした流れを通じて、社内でも「PeSをうまく活用しよう」という機運が確実に高まっていると感じています。

吉川:

私たちPeSは、会社が「素材営業」から「領域営業」へと転換し、トータルソリューションを提供する体制を築くうえで、先陣を切る役割を担っています。
私はまだ医療機器や住宅用の建材、食品包装などを扱うクオリティオブライフ事業の製品は勉強中ですが、高機能プラスチック事業の製品とは深く関わるようになりました。私たちの部署が新設されたことで、会社が「単一素材の販売」から「特定領域に対する総合的なソリューション提案」へと舵を切ったことは、他の事業部のメンバーにも明らかだと思います。

部署ができて間もないため、すぐに成果が出るわけではありません。しかし、今後は私たちが先頭に立ち、さまざまな素材を多角的な視点で提案していきます。この取り組みが事業全体に良い影響を与え、意識改革を促すのではないかと考えています。

――― 実際に他の部署との接点の中で、期待感や変化を感じることはありますか。

吉川:

まだ利益や売上といった具体的な数字には表れていませんが、周囲からの期待を感じています。またトータルソリューションを目指す中で私たちは、これまで扱っていなかった多くの素材について、新しい知識を習得する必要があります。様々な分野の知識を身につけようと努力している姿は、他の事業部にも伝わっていると思いますし、「自分たちの部署もパワー分野に限らず、トータルで提案できる力をつけよう」という刺激になっているかもしれません。

西川:

半導体パッケージの構造は、自動車だけでなくAIサーバーなど、様々な分野で多様化しています。これまでは特定のプロジェクトとして注力していましたが、今後は、例えば基板埋め込み技術や新しいケースタイプなど、多岐にわたる要求に応えなければなりません。そうした議論の中で、「そういえば、昔あのような技術があったな」と、過去の知見が掘り起こされる機会も増えました。まだ具体的な製品化には至っていませんが、埋もれていた過去の技術や知見を、現在の課題解決に生かそうという動きも出てきています。

――― 他部門との連携はどのような形で行っているのですか

吉川:

私たちの開発部門の中に、他部門のメンバーが兼務という形で所属しています。例えば、半導体関連部門のメンバーがスピンアウトして私たちの部署にいますが、他の関連部署のメンバーも、専任ではないものの兼務として参加しています。営業も同様で、専任の担当者に加え、他の材料を担当する営業が兼務で活動しています。そのため、毎週の週報や営業会議、技術会議などは、全員が同じチームとして参加して情報を共有しています。まずこのチーム内でソリューションを確立し、兼務のメンバーがそれぞれの所属部署に持ち帰ってフィードバックすることで、会社全体としての連携を図っています。

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横浜国立大学での実証実験の様子

さらに、社内にとどまらず外部との連携にも力を注いでいます。前身のプロジェクトでは、横浜国立大学の先生のご指導を受けながら進める中で、外部の知見を取り入れる重要性を学びました。お客様からいただく案件は出口に近いものが多い一方、最先端の技術シーズはやはり大学にあります。

現在は、東北大学の著名な先生をアドバイザーに迎え、開発を進めています。東北大学は、日本で初めて「国際卓越研究大学」に認定されるなど、今非常に勢いのある大学です。その中に企業と共に研究を進める「共創研究所」という枠組みがあり、私たちはこの制度を活用しています。パワーエレクトロニクスだけでなく、半導体を含む広い領域で、設計開発から材料選定、社会実装までを一気通貫で行う取り組みです。大学のリソースを最大限活用し、私たちの開発に反映させています。

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2025年1月発足『住友ベークライト×東北大学
次世代半導体向け素材・プロセス共創研究所』

もちろん、大学だけではありません。設備メーカー、評価メーカー、試作メーカーなど、国内外の多様な企業の協力があって初めて、私たちの開発は成り立ちます。自社内で完結するのではなく、多くのパートナーとWin-Winの関係を築きながら進める仕組みを取り入れています。

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私たちが目指すのは、皆が自由に参加できるプラットフォームのようなイメージです。お客様や各種メーカーにもそのプラットフォームに乗ってもらい、ワールドワイドで身軽に連携しながら、一緒に新しい価値を創造していく。まだ構想段階ではありますが、私たちだけが利益を得るのではなく、関わるすべての仲間と共に成長していくような形を目指しています。

――― 今後の目標を教えてください。

吉川:

まず私の短期的な目標についてですが、まだ入社2年目で、知識と経験が不足しています。製品群はトータルソリューションとして集約されましたが、すべてを完璧に説明できるわけではありません。昨年は封止材をメインに担当し、今年からセミシンタ材や放熱シートも扱い始めたばかりです。知識はまだ圧倒的に足りないため、着実に身につけていく必要があります。
新しい組織ができたことで、放熱シートを扱っていた営業担当者とも関わりが生まれました。私は勉強のため、これまで無縁だった放熱関連の会議にも参加させてもらい、知識を深めています。また、営業の先輩方に「この技術は別の案件で使えませんか」「この製品の仕組みは?」と積極的に質問し、常にアンテナを張るよう心がけています。
中期的な目標は、お客様のもとへ一人で訪問し、封止材・セミシンタ材・放熱シートを網羅して説明し、最適なソリューションを提案できるようになることです。これこそが営業の醍醐味だと感じています。

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吉川:

部署全体の目標については、私はまず定められた方針に沿って目の前の仕事に全力で取り組むタイプです。現在、部署としては電力系統やAIサーバーなど3分野に注力しているため、お客様には必ず「電力系統やAIサーバー関連でお困りごとはありませんか」と伺うようにしています。さらに「御社のプレスリリースでAIサーバーに注力されていると拝見しました」と具体的な情報を交えて話を投げかけ、ニーズを引き出す努力をしています。今は情報収集段階ですが、ここから提案へとつなげたいと考えています。部署の目標に向かって、私はとにかく突き進むスタンスです。

また、海外のお客様も担当しており、英語での会議や製品説明も行っています。若手ながら、海外との関わりを通じて貴重な経験を積ませていただいています。

西川:

近々、海外出張にも行ってもらい、さらに経験を積んでもらう予定です。「たとえ何もかもが上手くできなくても構わない。とにかく現地に行って挑戦してこい」と伝えています。

吉川:

現在担当しているのは韓国と中国ですが、将来的にはヨーロッパやアメリカの案件にも関わる可能性があります。長期的に見れば、会社や部署のためになると信じています。様々なことに挑戦させていただける、本当に良い部署だと思います。

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西川

私の目標は、部署として「世界一」になることです。「パワーエレクトロニクスといえば住ベ」と世の中に認識されるようになることを目指しています。しかし、これは当然私一人の考えだけでは達成できません。彼のような優秀な人材が様々な提案をしてくれることで、それが集合知となり、初めて目標にたどり着けると考えています。

私は常々、部下には「とにかく何でも提案し、チャレンジしよう」と伝えています。チャレンジして成功すればもちろん素晴らしいですが、たとえ失敗したとしても、その挑戦自体を評価します。成功すれば3ポイント、失敗しても1ポイント、しかし何もしなければゼロです。
挑戦する人間を批判するような者がいれば、その者は評価しないとはっきりと伝えています。ですから、部下にはどんなことでも良いから、どんどん発言し、提案してほしいのです。彼も様々な意見を言ってくれますし、時には間違っていることもありますが、それは全く問題ありません。

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部署全体がこのように、何でも言い合える活発な雰囲気の中で、私がその意見を否定せず、まずは受け止めて「じゃあどうしようか」と次に繋げていく。そうした積み重ねによって、会社を成長させ、世界一という目標を達成したいと考えています。

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この部門はまだ開発部です。会社からは、従来の材料ごとの縦割り組織から、領域ごとの組織へと変革していくための最初の成功事例となることを期待されています。当然、開発部としては今後、事業化・事業部化を目指し、組織をさらに大きくして、住友ベークライトの中心がパワーエレクトロニクス事業であるという状態にしていきたいと考えています。

そして、私たちの取り組みが成功事例となることで、他の事業部にも「このようなやり方をすればうまくいくのか」と参考にしてもらいたいのです。パワーエレクトロニクス領域だけでなく、電子材料やクオリティオブライフといった他の領域でも同様の変革が起これば、会社全体として掲げている目標達成に繋がっていくはずです。私たちの部門がその良い手本となれたら嬉しいですね。

未来像──共創で世界一へ

――― 最後に、お客様へ向けたメッセージを。

吉川:

私はまだ修行中ですが、近い将来、封止材・セミシンタリング材・放熱シートまで横断的に語れる営業を目指して現場で学び続けています。海外案件にも挑戦し、英語での技術説明・評価立案まで担います。新しい視点をお届けできるよう、地道に進化していきます。

西川:

AIサーバー・再エネ・電動モビリティ……電力が価値の中心になる世界で、パワエレは効率と信頼性を支える基盤です。私たちは、素材を売るのではなく、構造と工程まで踏み込んだ解決を提供します。尖りを活かす組み合わせで、お客様の装置・ライン・ビジネスに実装可能な形まで寄り添う。これがPeSの矜持です。

当社は素材メーカーの枠を超え、世界中の仲間と価値を共創するプラットフォームを目指します。パワーエレクトロニクスの未来を共に切り拓き、世界一のソリューションを提供する──それがPeSの挑戦です「パワーエレクトロニクスといえば住友ベークライト」──その未来を、お客様と共に形にします。

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インタビュー:伊藤秋廣(エーアイプロダクション)

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