「パワーモジュールの未来をつくる──住友ベークライトPeSの挑戦」(前編)

「パワーモジュールの未来をつくる──住友ベークライトPeSの挑戦」(前編)

ご紹介

脱炭素社会の実現に向け、パワーエレクトロニクス技術は今や社会の根幹を支える存在となっています。当社は2025年4月に「パワーエレクトロニクスソリューション開発部(PeS)」を新設。前身であるNeAプロジェクトの成果を土台に、事業部の垣根を越えたトータルソリューションの提供を目指しています。本記事では前後編にわたり、PeSの立ち上げにかかわったメンバーのインタビューを掲載。前編では、PeSが立ち上がった経緯について語ります。

NeAプロジェクトからの進化

―― PeSの前身となるNeAプロジェクトでは、どのような技術的成果がありましたか?

パワーエレクトロニクスソリューション開発部長
西川 敦准

西川:

2020年から推進してきた「次世代電動アクスルプロジェクトチーム」、すなわちNeAプロジェクトは、樹脂の適用や独自の構造開発といった点で、社外からも大変好評を得ていました。しかし当初、社内には「そんなことができるのか」「やる意味があるのか」といったネガティブな反応が少なからずありました。当時、私自身もそのくらいの方が、逆にやりがいがあると感じていました。

やがてメンバーと共に取り組みを進めていくうちに、状況は変わっていきました。実際に試作品をお客様の元へお持ちすると、これまでの営業活動とは比較にならないほど反応が良かったのです。従来の提案活動のようにこちらから「評価してください」とお願いするのではなく、実物を見せて提案すると、お客様自らが"やってみよう"と積極的に取り組んでくださるという流れができました。

西川:

それによって、樹脂素材メーカーとして素材を提供するだけではなく、実際にモノを作って提案し、それをベースにお客様の技術者と間で深いレベルでのディスカッションが可能になりました。プロジェクト発足前には、e-Axleの内部構造を説明できる社員はほとんどいませんでしたが、やがて内容を理解したうえで具体的な形で示せるようになり、さらにお客様の信頼も深まっていきました。

西川:

その結果、社内の評価もがらりと変わりました。プロジェクトの実績やお客様の反応を社内の誰もが見ていましたから、「それなら一緒にやろう」という機運が高まりました。パワーモジュールは、半導体部門や高機能プラスチック部門など、複数の部署にまたがる材料で構成されています。そのため、「One Sumibe」という枠組みを使って、みんなで協力して進めていこうという流れができました。「One Sumibe」はいわば決まった定義はない社内活動です。正式な組織図や辞令もなく、誰彼となく「みんなでやろう」という動きです。
自発的なスローガンに向かって、部署の垣根を越えてメンバーが集まっているようなイメージですね。

 

プロジェクトチームのメンバーも元々は様々な部署から集まっていましたが、各部署のエース級の人材がさらに知恵を出し合い、「こうしたらどうか?」という議論が活発に行われるようになりました。その結果、プロジェクトチームの時以上にブラッシュアップさせることができました。

 

さらにNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が推進する「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム」に採択いただいたことも、事業がステップアップしていく上で重要な要素となりました。NEDOから「独りよがりの開発ではなく、社会実装まで持っていくように」とのアドバイスと的確な指示がありました。“面白いものを作って終わり”ではなく、社会実装を意識して、独自のパワーモジュール構造設計や封止技術を確立。顧客の要求に応える素材開発の手応えが、次のステージへの確信になりました。

PeSの設立とビジョン

――― PeSを立ち上げた背景と狙いについて教えてください。

西川:

NeAプロジェクトの成果を基盤に、会社としてパワーモジュールやパワーデバイスの分野にさらに注力すべきだという方針が固まり、2024年の4月には「One Sumibeパワーモジュールチーム」が発足。プロジェクトチームはもともと2025年3月までと期限が区切られていたので、次の組織形態を考えたときに、私たちも全社横断的なプロジェクトチームの形態を生かしつつ、正式な組織として動かしたいと考えました。

西川写真
 

経営層からも、世界市場には多くのパワーモジュール大手が存在する中で、当社がこれまで参入できなかった領域で案件化を実現した点が高く評価を得ました。さらに、実際にお客様による具体的な検討が始まったことも、大きな転機となりました。

当社はこれまでもチャレンジという意味合いでは、さまざまな挑戦を重ねてきましたが、複数の事業部を横断し、全社的な連携で取り組む事業は初めてのことだったかと思います。

――― PeSが目指すところを教えてください。

吉川:

PeSは、NeAで培った技術を全社的に展開するための新組織です。AIや再生可能エネルギー分野への応用を視野に、素材の組み合わせによる革新を推進しています。目指すところは、パワー分野において世界一になることです。「パワー分野の素材と言えば住友ベークライトだ」とお客様が認識してくれることを目指しています。

西川:

「住友ベークライトって、“パワエレの会社”だよね」と言われたいですね。

パワーエレクトロニクスソリューション開発部
吉川 雄斗

――― 本事業の社会的意義についてどのような自覚をお持ちですか。

吉川:

当社には「プラスチックを通じて人々に夢を提供する」という理念があります。成長が期待されるパワーエレクトロニクス分野で、当社の樹脂を社会実装することで、これまでお客様が解決できなかった課題を共に乗り越えたいと考えています。

より大きな電力を扱いながらも損失を最小限に抑え、効率的に発電すること、さらにAIに高速かつ効率的な学習を実現させることが重要な課題となっています。当社の樹脂技術は、こうした課題の解決を可能にします。これは社会的意義のある取り組みであり、お客様の競争力向上にもつながると考えています。

西川:

世界共通の課題であるエネルギー使用量の削減や脱炭素社会の実現。一方で、AIサーバーの登場により電力需要は今後さらに増加することが予想されています。こうした状況で、電力をいかに効率的に制御し、省エネ化を進めるか――その鍵を握るのがパワーエレクトロニクス技術です。

この課題をクリアすることこそ、最も大きな社会的意義だと私たちは考えています。5年前は電動車が主要テーマでしたが、もちろんその領域への提案は継続しつつ、社会の変化を捉え、発電分野への提案にも取り組み、テーマを広げています。

――― 吉川さんの若い視点から見て、今回の挑戦や、会社が目指す方向性をどのように受け止めていますか。

吉川写真

吉川:

とても魅力的だと感じています。世の中のトレンドを的確に捉え、その方向に進む方針は、私の立場から見ても進むべき方向だと感じています。 特にAI分野は今、急速に成長しています。当社にとってAIは新しい領域ですが、今後ますます不可欠になる分野です。その分野に注力し、製品を展開し、世界一を目指すという目標は非常にやりがいがあります。AIに限らず、パワーエレクトロニクス分野での取り組みも、仕事として大きな面白みがあります。

後編ではPeSの価値、そして未来についてご紹介します。

インタビュー:伊藤秋廣(エーアイプロダクション)

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