2022/7 【CARTALK】バイオマスを活用したリグニン変性フェノール樹脂で資源のサステナブル化に貢献(前編) | 住友ベークライト株式会社

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バイオマスを活用したリグニン変性フェノール樹脂で
資源のサステナブル化に貢献(前編)

新技術:バイオマスを活用したリグニン変性フェノール樹脂で資源のサステナブル化に貢献(前編)

ご紹介

リグニン変性フェノール樹脂

自動車向け高信頼材料に欠かせない熱硬化性芳香族材料であるフェノール樹脂の役割と、カーボンニュートラルや資源循環に向けた取組みについて開発に携わる研究者とお客様との窓口となる営業部門のメンバーが語ります。バイオマスを活用したリグニン変性フェノール樹脂のサステナブル化の「今」と「これから」を前後編でお届けします。
前編では、古くて新しい固形&液状リグニン変性フェノール樹脂の量産技術を開発するに至るまでの開発ストーリーとこの樹脂がもつポテンシャルを中心にお届けします。


現代社会が求めるカーボンニュートラルや資源循環に向けた取組み

持続可能な社会の構築が求められ、環境配慮型製品・サービスの市場が拡大していますが、住友ベークライトでは、すでに30年以上も昔から、植物由来のフェノール樹脂の研究開発を進めてきました。どのような思いから、それらのバイオマス素材を自動車向け材料に適用しようと考えたのか。フェノール樹脂のグローバルサプライヤーとしての使命をどのように捉え、どのように社会貢献していこうと考えているのか。今回は開発と営業のメンバーに熱い議論を交わしてもらいました。

カーボンニュートラル

――まずは、リグニン変性樹脂の歴史、および開発を手掛けるようになった背景から教えてください。


HPP技術開発研究所 研究部 村井威俊

HPP技術開発研究所 研究部
村井威俊

 
村井 リグニンはセルロース、ヘミセルロースと共に植物を構成する3大成分の1つです。材料としては使いづらいため主に燃料として、一部のみ分散材や添加剤として使われてきました。リグニンの材料への適用の研究自体は、歴史的に見ると長く、戦前から検討されていましたが、石油由来の製品活用がメインだったため広がりは見せていませんでした。当社では、2010年頃から主力製品のフェノール樹脂について環境対応ニーズが将来的に高まることを想定し、リグニン成分の樹脂利用の基礎研究に着手、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業への参画も含めて、リグニンを用いた樹脂合成の基幹技術と産業利用を目指した樹脂開発を進めてきました。
リグニン変性フェノール樹脂製造のプロセス

HPP技術開発研究所 研究部 浅見昌克

HPP技術開発研究所 研究部
浅見昌克

   
浅見 産業の歴史的な大きな流れでいうと、「石油の枯渇」が叫ばれていた時代から、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」という時代になってきています。このような社会的な背景のもと、環境負荷低減、循環型社会に向けたサステナブル化の要求が高まり、ここ数年自動車も含めた様々な業界で改めてバイオマス原料の活用に興味を持つお客様が多くなっているように感じます。今は石油枯渇というより、気候変動による影響について環境負荷低減を企業の社会的責任として真剣に考えなければならない時代にきているのだと思います。

今井 私も、その変化は確かに感じています。10年前にはお客様に響かなかったご提案が、最近は強い関心を示していただいたり、逆にお客様から引き合いをいただくことが多くなってきました。
 
吉田 私は中国に赴任し、日本に戻ってきて2年になりますが、この2年のうちに「カーボンニュートラル」という言葉の浸透が加速化していると思います。2年前にそこまで興味を示していなかったお客様が、ここ最近は先方からお問い合わせをいただくなどが多くなりました。半年単位で空気が変わってきているように感じています。
HPP技術開発研究所 研究部 今井淳司

HPP技術開発研究所 研究部
今井淳司

高機能プラスチック事業本部 ポリマー営業部 吉田康司

高機能プラスチック事業本部 ポリマー営業部
吉田康司

       
村井 そうですね。また、気候変動や資源の枯渇もさることながら、最近では「すべての原料が揃わない、原料によって供給量に差が出るかもしれない。」という新たな課題も生まれており、色々なものを色々な原料から作る必要性が生じると考えています。我々も従来の石油由来フェノール樹脂に代わるものも積極的に開発しようという流れになってきています。

今井 極端なことを言えば、石油というものを使わない世界がやってくると考えておく必要がありますよね。

吉田 そうですね。調達ソースが石油由来以外にも、選択肢があるという方向性をお客様にお話しすると「なるほど」と興味を示してくださる方が確実に増えています。

村井 こういった技術開発を社内で継続する風土も背景にあると思っています。当社でもこのような製品にかかわる開発人員が一時的に減ったこともありましたが、それでもこつこつ続けていけば、どこかで花開くだろうという想いもありました。それは目先の利益だけに捕らわれないという会社としての考えもありますし、この研究所独自の考えも大きく影響しています。国のプロジェクトに参画した実績もあったので、こうして長く研究を続けてこられたのだと思います。

 
 

―― 脈々と研究開発を続けてきた歴史もあるということですね。自動車製品に適用しようと考えるようになった、きっかけをお聞かせください。

岸
 
前佛
 
吉田 先ほど村井が説明したように、2010年以降、商業化に当たり、高品質・付加価値を目指して研究開発を進めてきました。リグニン変性樹脂の可能性をどこまで広げられるか、液状から固形、そして我々の強みでもある自動車製品への適用も視野へ入れるといった流れがあります。ご存じのように自動車向け材料は高い信頼性が要求されますが、特に機構部品などは過酷な条件に耐えうる素材が必要です。シェア、品質、技術ともに自動車業界に強いという自負があります。自動車業界のお客様の信頼性も高く、我々は自他ともに自動車業界には欠かせない存在になっています。その中で、カーボンニュートラルというのは自動車業界でも注目されているトピックでありますし、実際に自動車部品メーカーの中にはカーボンニュートラル推進室を設置する会社もあります。そこに対して「CO2削減につながります」という提案は響くだろうと考えました。すでにブレーキパッドには、粉末のフェノール樹脂のノボラックタイプと呼ばれるものが使われていますが、ノボラックタイプのリグニン性樹脂を量産化したのは我々が世界初となります。そこも強くアピールしていっています。

―― カーボンニュートラル素材を提案しようという流れは、社内から生まれた話でしょうか。それともメーカー様の要望の中から生まれたのでしょうか。

   
村井 サステナビリティ、カーボンニュートラル素材の開発は、私たちがサプライヤーとして自主的に取り組んできたものですので、社内発で提案に至ったと考えています。これはリグニンに限った話ではありません。私たちはフェノール樹脂のトップメーカーとして、リサイクルや、バイオマス樹脂の検討など様々な取り組みを進めておりますが、いずれも社内発だと考えています。一方でNEDOやRITEといった国などの機関とも連携して開発を進め、展示会やプレスリリースなどでも発表していく中、それを目にしたメーカー様から問い合わせをいただくこともあります。

吉田 営業サイドでも、情報を聞きつけたお客様から「実際に触ってみたい」という声が多くあがります。以前は大手企業の経営層や研究開発チームからの問い合わせが多かったのですが、最近は、開発現場の最前線に立つ方々にも響くようになったのが大きな変化だと感じています。

高機能プラスチック事業本部 ポリマー営業部 石山 葉

高機能プラスチック事業本部 ポリマー営業部
石山 葉

 
石山 私も、入社直後に紹介した際は案件継続につながらなかったものが、ここ最近問い合わせを受けて案件につながることもあります。やはりそれは大手企業中心にサステナブルな考えが浸透していて、具体的に「何年までにサステナブルな材料に置き換える」という目標を立てられているお客様もいらっしゃるので、そういった会社には響く時代になったと感じています。

―― リグニン変性樹脂を使うことでユーザーの方々はどういった付加価値が享受できるのでしょうか。

 
村井 多くの用途で既存製品と比べても、技術や性能面において遜色ないレベルに到達してきています。一部の用途では、高品質な製品と同等の機能を実現しています。採用のネックとなりうる価格面でも、初期は導入スケールが小さいため単純な比較は難しいですが、多少のアップで済む可能性があります。私たちが現在リグニンに力をいれているのも、従来の石油由来樹脂に近いプロセス・コストで、環境負荷低減が可能と、現実的にもっともスムーズにフェノール樹脂の置き換えを進められると確信しているからです。

石油由来、リグニン変性比較
 
吉田 自動車は開発まで慎重に進められるところも多く、評価されるまでの期間が長く、製品化までは2年ほどかかるのではないかと踏んでいます。特に機構部品などにおいては過酷な条件に耐えうる樹脂が必要とされています。近年は、サステナブル化の要求が高まっている一方で従来通り高い信頼性が必須で、長い信頼性評価を経て合格する必要があります。
最近は、お客様が考えているカーボンニュートラルへのロードマップなどをHPなどで開示していることも多いので、営業部門でリサーチして開発の協力を得ながらお客様の描く未来像にあった提案を行っています。