2023/5 【CARTALK】自動車分野で採用が進む住友ベークライトの情報通信材料 | 住友ベークライト株式会社

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自動車分野で採用が進む住友ベークライトの情報通信材料

自動車分野で採用が進む住友ベークライトの情報通信材料

ご紹介

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世界的に自動車の「電動化」が急ピッチで 進んでおり、 従来のガソリンや軽油が燃料のエンジンを動力とする自動車から、「バッテリ+モータ」を動力とするEV車(電気自動車)に置き代わり始めています。

今回は、自動車分野で採用が進む住友ベークライトの情報通信材料について、情報通信材料営業本部モビリティー材料営業部の二人から紹介致します。

総力をあげて自動車業界と向き合う決意

―― 自動車産業は「100年に1度の変革期を迎えている」と言われていますが、自動車分野で採用が進む住友ベークライトの情報通信材料の現状についておきかせください。


サンロイドエコシート®ポリカ

情報通信材料営業本部 モビリティー材料営業部長
成田 誠一郎


成田

当社の半導体関連製品は、主に4つの製品からなっています。一つ目は半導体封止材といわれるもので、半導体パッケージを封止する材料。二つ目は半導体チップを基板やリードフレームに接合するダイアタッチ材です。三つ目はウェハーの表面を保護する感光性ポリイミド材料です。そして最後にご紹介するLαZはパッケージの基板材料で、タブレットやスマホ向けなど高機能パッケージの基板などに使われています。

現在の主力製品は半導体封止材料で、国内外の半導体メーカーで使用されてきました。最近は、自動車の電動化・電子化が進んでいますが、搭載されるECU(Electronic Control Unit)封止への適用が進んでおります。さらなる信頼性向上のため、高耐圧、高耐熱の材料が求められるようになってきました。その流れを受け、ここ10年ほどで自動車メーカーとのビジネスも増えてきています。そこで、我々も自動車に特化した材料に注力していくべく、2011年に自動車電子材料市場開発プロジェクトチームを発足。私や栗原がそのメンバーとなりました。

当社の半導体封止材料はワールド・ワイドでシェアナンバーワンの製品ですが、それを現在、自動車向けに様々な用途で展開しています。そのひとつに車載センサーがあります。自動運転機能の進化に伴い、センサーが増えてきているのですが、従来のセンサーにはモールドが使われる構造ではありませんでした。ところが今では、タイヤに取り付ける車輪速センサーなどにモールド材が使用されるようになるなど、さらなる需要の高まりを感じています。



―― この事業の発展ポイントとしては、自動車に求められる機能性の変化に対して、いち早く、その技術力を駆使して応えているというイメージでしょうか。

栗原

自動車の電動化・電子化が進み搭載部品が増えて来ており、ECUの搭載場所がなくなってきています。ECUが厳しい環境に搭載されますと高温に耐えられなくてはなりませんし、また寒冷地では氷点下になることもあります。耐熱性や信頼性が足りないとダメージを受けてしまうこともあるので、Tg(ガラス転移温度)を上げた耐熱性の高い材料を適用しながら、用途を広げていきます。


栗原

情報通信材料営業本部 モビリティー材料営業部
栗原 繁之


モビリティー材料  自動車市場の変化への対応

―― Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)といった「CASE」と呼ばれる新しい領域で技術革新が進む中、クルマの概念は大きく変わろうとしています。その流れなかで、貴社ではどのような取り組みを進めていらっしゃるのでしょうか。



❚ C【Connected(コネクティッド)】

栗原 Connected(コネクティッド)とは、簡単に言うと『つながるクルマ』。ICT端末としての機能を有するコネクテッドカーは、車両の状態や周囲の道路状況などさまざまなデータをセンサーから取得し、ネットワークを介して集積・分析することで、さまざまな価値を生み出します。今後は通信機能を生かすことで、さまざまなサービス展開が広がると予想されています。

成田 当社がこの分野で提案している高集積デバイス用材料はPCやスマホといった民生用の分野で豊富な実績のある半導体材料です。
モールドアンダーフィルは、半導体チップと有機基板間の微細なGap(50μm以下)を隙間なく充填し繊細な接続部を外部ストレスから保護します。これにより従来はアンダーフィル材(液状樹脂)を充填し、その後チップ全体を封止する2工程が必要でしたが、モールドアンダーフィル材は半田ボール接続部位含めて1回の工程で一括封止可能です。
封止材のラインナップの中で我々も非常に注目をしている製品としてモバイル用途向けプロセッサーや無線モジュール用封止材、フリップチップタイプのメモリ用等製品適用拡大中です。



❚ A【Autonomous/Automated(自動化)】

成田 A=Autonomous/Automated(自動化)に欠かせないセンサーモジュールですが、当社ではセンサーモジュール向け専用材料と課題解決ソリューションの提案に注力しています。
走行環境を判断するためのセンサーや車両制御、衝突回避機能などを実現する自動運転(AD:Autonomous Driving)/先進運支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance Systems)の技術開発と実用化が加速しています。自動運転機能の適用範囲拡大に伴ってさまざまな環境下で安定したセンシングを可能とするために複数のセンサーを組み合わせるマルチセンサー構成が今後の主流になるとされています。センサー自体も多くの機能を実現するためにパッケージの構造が複雑化しています。
一般的に電子製品のパッケージング技術には『接続』『保護』『放熱』などが課題に上がります。当社は、センサーモジュール向けに、課題解決ソリューションを提案しています。
『接続』という点では、熱可塑性樹脂への高い密着性が求められます。『保護』では耐環境性、耐ケミカル性についても様々な要求があります。センサーモジュールはさまざまな環境下に置かれるため、燃料、トランスミッション/エンジンオイル、バッテリ液、洗剤などの耐ケミカル性があること、外部と接する部分では耐水性などの機能が求められます。一般的に樹脂は薬液につけると劣化してしまいますが、当社の封止材はシリカを高充填しているので、耐環境性に優れています。




❚ S=【Shared & Serviceシェアリング/サービス】

成田 車を所有するのではなく、シェアリングして利用する意識が高まり、次世代モビリティーの動きの中でも世界各国で急速に広がっています。今後自動車メーカーは、車を製造販売するだけでなく、モビリティーサービスも提供する会社へと方向転換すると予想されています。
当社はこのような次世代モビリティーへの対応を踏まえて新たなソリューションを探索中です。

❚ E=【Electrified 電動化】



成田 E=Electrifiedは、モータが対象になります。CASEの中で電動パワートレイン向けソリューションは当社が今一番注力し、既に実績を拡大している分野です。ロータ磁石固定用材料やパワーモジュール用封止材、ダイアタッチ材、絶縁放熱シート、ステータ―封止材などのラインナップを用意しており、実績化が進んでいます。
磁石固定専用材料は、ロータの鉄と磁石の隙間に封止材料を注入・硬化させ、磁石を固定するものです。従来から採用されている液状樹脂の代替で 高耐熱・高強度・高生産性を実現します。磁石が少しでもズレるとモータの効率が悪くなるので、非常に重要な部品となっています。

栗原 この車載用のモータ磁石固定専用トランスファー成形材料は、当社の半導体封止材料として多くの実績がある半導体エポキシ封止樹脂を応用展開したものです。
狭部充填性に優れており高強度で振動に強く、高い放熱性を持つ製品ですのでモータの高速回転が可能となり、小型化・軽量化に寄与します。
また、製造の工程では従来は液状樹脂をノズルで注入して固定していましたが、液状では圧力がかけられないので、空隙ができてしまいます。それに対して磁石固定専用材料は成形機で上下から挟み、圧力をかけながら入れるので、空隙なく充填が可能です。
今は、モータの回転数が上がってきていて、それに伴い磁石が抜けたり、ずれたりという懸念がありますが、当社のモータ磁石固定用材料で固定すると高速回転でも問題ない事から多数お引き合いをいただいております。

 
成田 モータの外側にあるステータ―封止用材料にも注力しています。車載駆動モータ等の設計自由度が増し、機能向上に大きく貢献しうる製品です。
従来工法では、絶縁紙を銅線のコイルとコアの間に挟むことで絶縁性を確保する方法が広く採用されております。しかし、絶縁紙を折りたたみ、コイルの間に配置し、さらにワニスを流し込み、その後、乾燥させてステータ―に仕上げます。この工法は時間と手間がかかる上に、絶縁紙の熱伝導率は低く放熱性に懸念がありました。さらにステータ―は構造上、ワニスを注入してもコイルと絶縁紙の間に隙間ができ熱損失が増えることによりモータの効率に影響が出るおそれがありました。

当社がステーター向けに提案する方法は、狭部充填性に優れたエポキシ成形材でコイルと隙間を樹脂で封止して熱性能を大幅に高めるものです。もともとは半導体の封止材で、当社が世界トップシェアを持つエポキシ樹脂封止材料を用いることで高熱伝導率の実現、優れた狭部充填性でコイル間隙も充填を可能し、コイルで発生した熱を樹脂やコアを伝って外部に逃がしやすくなります。



成田 ローター磁石固定では、コアと磁石の間の100ミクロンといった狭い隙間へ狭部充填性や高強度で、熱伝導率も1ワット近くある材料を使用します。磁石は熱を出しますが、熱伝導率が良いと発生した熱を電磁鋼板へ効率よく放散し、結果的にコイル温度の低減に貢献します。磁石は耐熱性の高いものは高価ですが、当社の提案工法を使うことによって、磁石の耐熱性を落としてコストを下げることが可能になります。それに加えて、通常はワニスで封止されているコイルですが、ワニスをやめて当社のエポキシ樹脂で成形するということも提案しています。これによってモータの冷却性が上がるので、駆動エネルギーの最大化が図れます。また、振動によるコイルの絶縁破壊が抑制されるので、信頼性が上がります。実際はかなり狭いところに樹脂を充填するので、これまでは対応できる技術がありませんでした。いかに狭い隙間に綺麗に充填するかというのは、非常に難しいところです。それが可能になったのは、当社が半導体封止材料の分野で長年培った技術の応用が可能であったからです。現在、この技術は自動車だけでなく、産業向けのサーボモータなどにもご評価をいただいております。
成田 ECU一括封止技術は、小型センサーから大型ECUまで適用可能な制御モジュールを封止する技術です。現在、様々な機能を持つECUがありますが、従来はアルミケースのような構造で封止していました。当社は、ケースレスとしエポキシ樹脂封止材料で一括封止することを提案しています。これによって熱マネジメント、小型・高信頼性化、プロセス削減に貢献します。ECUの内部には多くの部品が入っているので、成形する際の圧力を減らし、低圧でも成形ができるような材料を用意しています。こちらは既に国内や欧州で実績化し横展開進展中、超大型TCUでも採用実績を積み重ねています。様々な成形手法に応じた豊富なラインナップを持っており、BCP対応のためにグローバルの供給体制も築いています。

栗原 次世代の課題として樹脂で封止すると、簡単に取り出しはできませんが、自動車は何か不具合があった際にすぐに不良部分を確かめたたり、廃車になったら高価な磁石を取り出したいという要望もあります。こういったニーズに適応する材料開発も行っています。とくに最近はリサイクルを念頭においた材料調達が強く求められています。とくに永久磁石は高価であり調達のリスクも鑑みて、できるだけリサイクルしたいという要望が増えています。10年以上前に製造された自動車がそろそろ廃車になる可能性がありますが、永久磁石に使われている希少なレアアースを、リサイクルしようという機運が高まっています。この課題はお客様と一緒に今後、追究していきたいテーマの一つです。



成田 世界中のあらゆる産業で脱炭素化が進む中、モータ駆動での電力利用効率向上のためパワーモジュールの需要が急増しており、今後さらなる市場規模の拡大が見込まれています。特に、炭化シリコン(SiC)や窒化ガリウム(GaN)など、次世代材料をベースとしたパワーモジュールの成長が顕著です。
モータの回転を制御するインバーターにはパワーモジュールが必要です。自動車に限らずエアコンや太陽光パネルなど、インバーターが回るところには必ずパワーモジュールが存在しています。従来の形態はケース型といってケースを用いて液状樹脂を用いて封止する構造になっていました。これに対して当社はモールド型へ切り替えを提案しています。ケース型からモールド型に変更することで、小型・軽量化に寄与し、高耐熱封止材を用いたトランスファー成形を行うことで、一度に複数の成形が可能になり生産性が高く、高信頼性に寄与します。技術ポイントとしては、原料メーカーとも取り組みながら、新しい材料開発に注力しており、高耐熱性、高信頼性(高絶縁、高密着)や放熱性の高さも、メリットとなっています。

―― お客様のニーズが高まっていく中、どのような研究・開発・製造・営業拠点の体制を組んで事業に取り組んでいるのでしょうか。

成田 当社の半導体関連材料の拠点は、世界4工場・8研究所の現地化により、顧客要求に迅速に対応しています。日本国内には福岡県の直方市に工場と研究所があります。海外は中国の蘇州市、シンガポール、台湾に製造拠点があります。昨今、BCPの重要性が言われていますが、我々の強みとしては、この4つの工場のどこでも同じように生産が可能な点にあります。何かあった場合には他の工場で代替生産が可能です。各拠点には営業やマーケティング部門も置いていて、なるべくお客様の近くで迅速にやり取りができるようにしています。ヨーロッパとアメリカにも拠点がありますが、オープンラボを開設し封止材のラインの準備も進めています。日本のみならず欧米主要顧客の近くで、研究開発と営業マーケティング活動を行っています。


情報通信材料研究所(九州住友ベークライト株式会社内)

―― オープンラボについて教えてください。


Sumitomo Bakelite North America, Inc.のオープンラボ


Sumitomo Bakelite Europe (Ghent) NV

成田 モビリティー製品開発のグローバル展開の中で、顧客の近くで研究開発促進し、国内では九州・静岡に拠点を置いています。海外ではシンガポール、中国の蘇州市、台湾、昨年は米国のデトロイトエリアにオープンラボを開設、欧州はベルギーに駐在員を配置し、ゲント市の工場内に新ラインが稼働しました。
オープンラボには試作検討を進めるうえで必要なトランスファー成形機をはじめ、専用の設備が必要となります。はじめてお客様が検討を始める際には成形機などの設備や材料を無料でお貸しして、お客様に金型を作ってもらい、試作をしていただきます。そして評価の結果が良ければ、当社で量産していただくというきっかけ作りをしています。現在までに、国内外の多くのお客様にご利用いただいています。そこで作業を行いながら意見交換をして、お客様のニーズを正確にキャッチし、それに対してご提案をしています。また、我々の材料に足りないところがあれば、原材料メーカーと協力して材料の組成を改良することもあります。
開発の構想の初期段階から我々も一緒に入らせていただくというスタンスです。我々の研究所に評価設備もあるので、そこでのお手伝いを通してお客様の工数短縮などにもご協力させていただきます。オープンラボをフル活用して お客様の夢を具現化し一緒に開発をする所存です。

―― CN、リサイクルなどを意識した環境対応に関する取り組みについて教えてください。

栗原 当社の主力製品であるフェノール樹脂については、リサイクルの技術が進んでおり、製造時にも非可食植物を用いたバイオマス由来のリグニン変性フェノール樹脂の開発や、バイオマスフィラーなどを利用したバイオマス度の高い樹脂の開発が進んでいます。
そんな中で我々半導体関連材料の分野でも環境対応に対するニーズの高まりを強く感じています。今はさまざまな可能性を検討段階です。
リサイクルという点では、容易に解体できる易解体材料を開発しています。いずれは、採用要件の1つにリサイクル性も重視されるときがくるだろうと予測し危機感を持って取り組んでいます。

 

フェノール樹脂ケミカルリサイクルの実証プラント


―― 今後の抱負を教えてください。

栗原 私は日系のお客様を担当していますが、まず案件を増やしていくということがベースにあります。研究と連携して、常にお客様の目線に立つことをモットーとしています。全体の市場も広がっていく中で、我々がまだ取り組めていないことや、これから出てくる話を早めにキャッチできるようにしたいです。
とにかく、お客様目線で“この製品を使うと何が良くなるのか”を常に考えていきたいです。よく「こんな良いものができた」と材料の物性を出しますが、それももちろん大事ですが、“それを使って何ができるのか”を常に考えることがポイントだと思っています。どんな良いことに繋がるのかというお客様のメリットを大事にしていきたいですね。

成田 私たちは、モビリティー100%という目標の達成に向けて、様々な取り組みを進めていきたいと思っています。そのために、お客様の実現したいことをよく聴くことを大事にしたいです。我々も当然、自動車の構造など理解が必要なのでもっと勉強しなければなりませんが、勉強もしつつ世の中のトレンドも把握しながら、お客様の要望をうまく研究にフィードバックして、より良い材料開発をしていきたいです。お客様の開発段階から一緒に取り組むことを目指します。

 

 

社内では「One Sumibe活動」という全社横断の活動もあります。我々は他の事業部でもお客様が共通していることも多いので、自分たちの事業だけを考えるのではなく、横串連携で、他の事業部でも展開できそうなものがあれば提案をして、幅広い商品力で展開するということも目標にしています。また、社外連携も原材料メーカー、装置メーカー大学・官庁コンソーシアムなどとの幅広いパートナーシップを活かして市場のニーズに応え、課題解決の一助となるべく邁進しています。

インタビュー:伊藤秋廣(エーアイプロダクション)