トップメッセージ
TOP MESSAGE
2030年ありたい姿に向けて
人材と技術を継承し、
挑戦者を讃える風土を築く

対話で未来を拓く──
社長就任にあたって
このたび社長に就任するにあたり、新たな挑戦の機会をいただいたことに、関係するすべての皆さまへ深く感謝申し上げます。同時に、住友ベークライトという歴史ある会社を率いる重責に、身の引き締まる思いです。多くの先輩方が築いてきたこの素晴らしい会社を、さらなる成長へと導くために、全力で取り組む覚悟です。当社グループは現在、中期経営計画2024-26の期中にあり、2030年のありたい姿として事業利益550億円を掲げています。目標を達成すべく、「お客様との価値創造を通じて、『未来に夢を提供する会社』」というビジョンのもと、全社を挙げて仮説と検証のサイクルをスピーディーに回しながら、具体的な施策へと落とし込まなければなりません。そのためには、お客さまとの対話や、従業員の皆さんとの丁寧なコミュニケーションが不可欠です。人の声に耳を傾け、一緒に課題解決の道筋を考える姿勢を大切にしながら、2030年のその先も見据えて成長の礎を築いてまいります。
現在の当社グループを取り巻く事業環境は、概ね良好だといえます。2024年度には売上収益3,000億円、事業利益300億円を達成し、お客さまとの強い信頼関係のもと、各事業セグメントが着実に成長しています。半導体や電子部品を含むICT分野、高機能プラスチックに代表されるモビリティ分野、クオリティオブライフ向上に貢献するヘルスケア分野など、当社は幅広い領域でニッチ&トップシェアを追求し、グローバルで高い評価をいただいています。一方で、外部環境の変化は非常に早く、かつ大きなうねりを伴っています。新型コロナウイルスのパンデミック、ウクライナ情勢、アメリカの関税政策など、過去の常識が通用しない時代に突入しており、こうした環境下では自社だけでの対応には限界があります。お客さまやサプライヤー、研究機関といった外部ステークホルダーとのパートナーシップをさらに強化し、変化を先読みして柔軟に対応していくことが肝要です。そして、外部との協業を通じて企業価値を高め、従業員一人ひとりが住友ベークライトグループの一員であることに誇りを持てるような、個人と組織がともに成長を実感できる会社を目指していきたいと考えています。


変化を恐れず、挑戦する姿勢を大切に
私は1989年に住友ベークライトに入社し、36歳でインドネシアにある高機能プラスチックの関係会社(IPJ)の営業部長として、初の海外赴任をしました。東南アジアからインド地域までを担当しましたが、未知の環境で多様な人々と対話する日々は刺激に満ちており、現地の成長意欲や向上心に大いに感化されました。当時のIPJの規模を3倍に拡大するというミッションを背負いながら、お客さまや従業員とともに成長できた経験は、対話によって課題を解決していくというその後の仕事の指針になりました。帰国後は、半導体関連材料事業セグメントへと異動し、まったく異なる領域に挑むことになりました。2011年の東日本大震災直後という混乱期において、私は営業部長として迅速な対応を求められる立場でした。半導体の知識は乏しかったものの、まずは信頼関係の構築が優先と考え、周囲のメンバーの力を借りながら顧客との対話を重ねました。その結果、協業体制を構築しビジネス拡大にもつなげることができました。当時の上司の強いリーダーシップと、チーム全体の一体感があったからこそ、困難な状況を乗り越えることができたのだと感じています。
こうした経験を糧に、私はリーダーとして「最悪のケースを想定した上で、変化を恐れず挑戦する姿勢」が重要だと考えるようになりました。この「変化を恐れず、挑戦する姿勢」は従業員の皆さんにもぜひ意識して、仕事にあたってほしいと考えています。そして、従業員の皆さんには、次の3つの行動を特に意識していただきたいと考えています。
第一に、主体性を持ち、自分ごととして取り組むことです。日々業務に向き合う中で、前向きな姿勢で充実した時間を過ごしてもらいたいと考えています。そのためには、指示を待つのではなく自ら考えて行動し、自分の判断に責任を持つスタンスが不可欠です。
第二に、チームで成果を出すために、しっかりとコミュニケーションをとることです。チームで互いの強みを活かし合い、周囲とつながりながら進めていくことで、大きな成果が生み出せます。
そして第三に、結果にこだわり、最後までやりきることです。結果が出れば自信につながり、失敗からも多くの学びが得られます。やりきったという実感と経験は必ず次につながるはずです。
改革の端緒をつかみ過去最高の売上収益と事業利益を達成
〜2024年度の振り返り〜
2024年度は新たな中期経営計画の初年度として、当社グループが長い間掲げてきた売上収益3,000億円、事業利益300億円という目標を、初めて達成した記念すべき年となりました。藤原会長のリーダーシップのもと、従業員一人ひとりが課題に真摯に向き合い、挑戦を重ね、成果を生み出してくれたことに深く感謝しています。一方で、高機能プラスチックの北米事業では減損の影響を受け、当期利益は前年比でマイナスとなりました。しかし、これを踏まえた上で、今期は業績を再び上昇軌道に乗せる目標を設けています。財務目標では事業利益の目標に加えて、ROEを2026年度に9.0%、2030年度には10.0%と定めており、B/Sの最適化にもこだわって取り組んでいきます。
また、2024年度は製品ポートフォリオの改革に目を向けた一年でもありました。3事業セグメントの2024年度の状況については以下のとおりです。
01. 半導体関連材料
中国市場の伸長に対応すべく進めてきた設備投資が功を奏し、新工場の稼働も含めて安定供給体制が整いつつあります。台湾は主にパソコンやスマホ向けの需要が伸び悩み、東南アジアでは車載半導体が在庫調整の影響を受けました。モビリティ戦略3製品は、欧米のEV需要の減速をHVで補い、概ね計画どおりの販売を維持できました。
02. 高機能プラスチック
当社グループのグローバル供給体制を活かし、アジア圏では過去最高の売上収益・事業利益を記録しました。中国では最新鋭の自動化設備を備えた新工場が稼働し、生産性の向上にもつながっています。一方、北米・欧州は厳しい状況にあり、特に北米のフェノール樹脂関連は不採算により減損処理を計上しました。航空機部品は顧客のストライキの影響を受けたものの、2025年度は回復傾向にあります。半導体用途でのCOPLUS®や超低モノマー水溶性フェノール樹脂、パワーモジュール用に開発した放熱絶縁シート材料など、高付加価値製品の実績化も進んでおり、今後の利益貢献に期待を寄せています。
03. クオリティオブライフ関連製品
フィルム・シート事業では、電子部品の搬送に使用するカバーテープや半導体製造工程で使用されるダイシングテープの販売が好調に推移しました。ほかにも、ヘルスケア分野のマイクロ能動カテーテルや、車載向け光学製品なども需要が伸び、計画を大幅に上回る成果を上げることができました。


新たに定めた12の経営重要課題とその着実な進捗
加えて、2024年度には、サステナビリティの観点で12の経営の重要課題を新たに定め、財務・非財務の両面でKPIを設定しました。特に重要視している「環境・社会価値の創造」では、SDGs貢献製品の売上収益比率を2030年までに70%に上げ、GHG排出量を2021年度比で48%削減することを目標としており、いずれも前倒しで進捗しています。また、「環境・社会価値の創造」を加速していくために、顧客との共創、イノベーション、人的資本(人材の活躍)経営、DXの4つの「価値創造のアクセル」を定めており、それぞれの進捗も順調です。「事業を継続する基盤」としての安全衛生やサイバーセキュリティ、製品責任、人権尊重、コンプライアンス、サステナブル調達、コーポレート・ガバナンスといったテーマにも引き続き注力していきます。安全衛生において一点、触れなければならないのは、3件の事故が発生したことです。この事態を受けて、私が事業責任者としてメッセージを発信し、各事業所の意識改革を促しています。「安全をすべてに優先させる」という基本姿勢を再徹底し、今後も安全第一で取り組んでまいります。
顧客との共創の面では、顧客満足を超えた「顧客感動」を提供するために、「One Sumibe活動」の推進に力を注ぎました。私自身、推進責任者を担ったこともあるこの取り組みは、部門を横断した社内連携を活性化し、顧客へのトータルソリューション提案の質の向上など、大きな成果を生んでいます。最近では、参加するメンバーから経営層への自発的な提案も増えており、2024年度はパワーモジュール、2025年度はバッテリーモジュールをテーマにしたワーキンググループが重点領域拡販チームとして活動しています。このほかにも、顧客の施設内で行うインハウス展示会の開催やグループ内の連携をより活発にするためのインフルエンサーチームの発足など、多岐にわたる活動が、事業貢献と組織活性の両面で機能しています。藤原会長は以前から「ボトムアップの提案をトップが支援する」体制が理想と話しておりましたが、「One Sumibe活動」の盛り上がりを契機に、風通しの良い企業風土をより強固なものにしていきたいと考えています。
ポートフォリオ改革に着手し、成長戦略を加速する
今期、当社グループは引き続き「“ニッチ&トップシェア”を目指し、価値創造につながるポートフォリオ改革に挑戦する」中期方針の歩みを進めます。その柱の一つとなるのが、既存事業の収益力強化です。自動化・デジタル化による生産性向上や、生産拠点の再配置を通じた効率化に取り組むとともに、中国や台湾で最先端工場の稼働を開始するなど、コストと品質の両面で競争力を高めていきます。また、「利益基準への転換」を重要な方針に定めており、2020年度より導入した社内独自の経営管理指標「SB-ROIC」のKPIを設定し、事業部門ごとに投下資本に対する利益率を算出することで、資本効率性の向上を図っています。
もちろん、成長領域におけるビジネスの拡大も忘れてはいません。重点3領域であるICT、モビリティ、ヘルスケアの各分野において、当社の技術力と製品力をさらに磨いていきます。ICT分野では、AI半導体やパワーエレクトロニクス市場を主要ターゲットとし、顆粒や液状の封止材、TIM、基盤材料のLαZ®、再配線材など、自社ラインナップを拡充しながらソリューションにつながる提案力を高めています。モビリティ分野では、高付加価値の成形材料や工業用樹脂で高いシェアを有し、EV分野における素材開発も進展しています。エポキシ樹脂を用いたモーター磁石固定封止材やECU/TCU一括封止材といった製品をOEMやTier1メーカーに提供し、信頼関係のもとで市場を拡大しています。さらに、ステーター用封止材のロボット用途への展開や、ヘッドアップディスプレイ用光学製品、航空機部品の開発も進め、モビリティ領域での貢献を広げています。ヘルスケア分野においては、SBカワスミの発足以降、低侵襲治療機器の開発に注力しており、消化器系ステントなど製品ラインナップを拡充しています。また、国内で高いシェアを誇る医薬品包装分野では、モノマテリアルPTPの開発を海外市場向けに進めており、さらなる成長が期待されます。
現在当社は製品ポートフォリオ変革期にあり、次のステージではいよいよ事業ポートフォリオの改革に取り組みます。重点3領域に加え、食品包装や建築関連といったライフイノベーション領域の強化も視野に入れ、全社的に製品・技術の棚卸を進めます。その中で、顧客価値を最大化するソリューションを見極め、不足している要素についてはM&Aや技術導入も含めて戦略的に検討していきます。
新商品・新ソリューション創出の取り組みとしては、2016年にスタートした社内プログラム「SBinno」が実を結び始めています。初年度にメンバーとして選ばれた社員が取り組んできたテーマが、現在BMI(Brain Machine Interface)プロジェクトチームとして事業化に動いており、今後も同様の活動が続くことを期待しています。また、多様性の時代における新たな価値創造は、もはや自社単独では成し得ません。そのため、パートナー企業や大学など、外部との連携がこれまで以上に重要です。実際、2025年から東北大学と連携し、「次世代半導体向け素材・プロセス共創研究所」を設立しました。こうした共創の場を通じて多様な知見を取り入れ、技術対応力の幅を広げ、お客さまの真のニーズや課題に寄り添える関係性を築くことが、真の価値創造につながると確信しています。
そして、個人の自律性と全社力最大化については、2021年度から始めた人事制度改革の一つとして、チャレンジ度を評価指標に加えた制度を導入しました。年次や年齢にかかわらず、挑戦によって成果を上げた社員が早期に昇格できる環境が整ってきています。さらに、SBスクールや海外トレーニー制度、「SBinno」などによるスキルアップ支援に加え、DE&Iを推進し、引き続き多様な人材が活躍できる組織づくりに取り組んでいく考えです。


私たち自身が夢を持ち、「未来に夢を提供する会社」へ
私は住友ベークライトに長年勤め、3つのセグメントを担当してまいりましたが、常に感じているのは、当社には誠実で素晴らしい従業員が揃っているということです。藤原会長はこれまで、人間力向上の大切さを説いてきましたが、その成果が着実に現れていると実感しています。私たちは2030年に「お客様との価値創造を通じて、『未来に夢を提供する会社』」となることを掲げ、数値目標も定めました。今後はその実現に向けて、一段と、「失敗を恐れず挑戦していく」姿勢が求められると思っています。失敗にはどうしても不安が伴い、誰しもが避けたくなるものです。しかし、だからこそ重要なのは、心理的安全性を確保し「挑戦者を讃える風土」を醸成することです。これを特に経営層が率先して意識し、支援していくことが欠かせません。仮説提案を繰り返し、真のニーズを見極める。そして、その実現に向けてリソースを集中し、スピード感をもってソリューションにつながる技術や製品を提供し続ける。その積み重ねの先にこそ、未来につながる「夢」があると信じています。各部署、各チーム、そして従業員一人ひとりが、それぞれの立場で「未来に夢を提供する」とは何かを自分ごととして考え、具体的な行動に移してほしいと願っています。まずは私たち自身が夢を持ち、2030年のビジョン達成に向かって一歩ずつ前進していきましょう。
最後に、私たちは積極的に企業価値の向上を図るとともに、株主の皆さまへの利益還元を大切にしたいと考えております。すでに2025年2月には、株主還元の充実のため自己株式の取得を行いました。利益配分については、引き続き将来の事業展開のための投資や持続的成長に向けた戦略投資、M&A等の資金の確保なども勘案し、安定的かつ継続的な配当を実施してまいります。ステークホルダーの皆さまにおかれましては、これからも変わらぬご支援のほど、よろしくお願いいたします。