従来の乳がんマーカーは感度や特異度が十分でなく、乳がんの早期発見にはより高感度かつ特異的な診断法が求められています。今回はInternational Journal of Molecular Sciencesに発表された論文Upregulation of Sulfated N-Glycans in Serum as Predictive Biomarkers for Early-Stage Breast Cancerをご紹介します。
本研究では、血清中の硫酸基化N型糖鎖を網羅的に解析し、早期乳がんの新たな予測バイオマーカーとしての可能性を検討しました。従来の方法では検出が困難であった硫酸化糖鎖を高感度に定量するため、グライコブロッティング法を用いた“サルフォグライコミクス”解析が採用されました。この手法では、糖鎖をBlotGlycoRで精製し、弱陰イオン交換分離、MALDI-TOF MS分析の組み合わせにより正確な定量が可能となりました。エチオピア人乳がん患者76例と健常対照20例の血清を比較した結果、13種類の硫酸化N型糖鎖が同定され、そのうち7種類が乳がん患者群で有意に増加していることが確認されました。
特にステージI〜IIの早期乳がんでこれら糖鎖の上昇が顕著で、診断精度を示すAUC値が0.8以上と高い結果が得られました。また、この糖鎖には、がん細胞の接着、免疫回避、転移に関与するルイス型抗原構造やシアル酸修飾が特徴的に見られています。本研究は、非侵襲的かつ高精度な早期乳がん診断法の可能性を示し、硫酸化糖鎖解析技術ががん診断だけでなく、他疾患の糖鎖バイオマーカー研究にも応用できることを示唆しています。