文字サイズ

再生医療分野に向けた新規三次元培養容器
PrimeSurface® 96スリットウェルプレートの発売について

2019年02月06日


住友ベークライト株式会社(本社:東京都品川区、社長:藤原一彦)は細胞の凝集塊(※1)の作成から成熟培養までの一連のプロセスを同一容器内で簡便に効率よく実施できる「PrimeSurface® 96 スリットウェルプレート」を2019年2月6日より販売を開始致しますのでお知らせいたします。本製品は再生医療の実用化推進に寄与します。


これまでの当社の取り組み

従来、細胞の凝集塊を形成する方法として一般的にハンギングドロップ法(※2)が用いられてきました。しかし均一なサイズの凝集塊を多数個形成させるには作業の習熟を必要とする点が課題でした。当社はこの点に着目し、独自の表面処理技術を用いて、均一なサイズの凝集塊を容易に形成できる三次元細胞培養器PrimeSurface® シリーズ(※3 凝集塊を形成するための96個のウェル[穴]構造を持つPrimeSurface® 96Uプレートなど)を開発・販売し、現在までに幹細胞を使った再生医療の研究や、がん細胞を使った抗がん剤の薬効評価などで広く用いられています。


凝集塊培養時の課題

細胞を培養するためには、細胞の栄養である培地を適切な頻度で新鮮なものに交換する必要があります。例えば、PrimeSurface® 96Uプレートは各ウェルが独立した構造になっているため、96個のウェルすべてについて個別に培地交換作業を行う必要があり、作業が非常に煩雑になることが課題でした。

また、SFEBq法(※4)などのように幹細胞の凝集塊を長期に培養して成熟させる方法では、各ウェル内の培地量が不足するため一つの大きなシャーレに凝集塊を移して培養するプロセスがとられます。しかしこのプロセスは、凝集塊を移し替える際に細胞にストレスが加わること、操作中に誤って凝集塊を吸引・廃棄しかねないこと、そして一つの大きなシャーレ内で凝集塊どうしが接触・融合してしまうことなどが課題でした。


今回発売する新規三次元細胞培養容器

これらの課題を解決するために、表面処理技術と構造設計技術を駆使して、幹細胞などの凝集塊の形成から成熟培養までのプロセスを同一容器内で実施できる画期的な新規三次元細胞培養容器PrimeSurface® 96スリットウェルプレートを開発しました。

本製品は96個のウェルそれぞれの上部に培地が出入りできる細い開口部(スリット構造)を設けた三次元培養プレートです。このスリット構造は、凝集塊が通過しにくい幅に最適化されており、プレートのコーナー部分から培地を吸引または添加するだけで、各ウェル内に凝集塊が入ったままの状態でプレート全体の培地を一度に交換することが可能となり、培地交換の時間・手間を大幅に削減致しました。

また、本製品は従来製品よりも多くの培地をプレート内に保持できる設計のため、凝集塊をシャーレ等に移し替えることなく長期間にわたる成熟培養が可能です。

培地交換はじめ、凝集塊の形成から成熟培養までのプロセスを簡便に実施できる本製品は、操作の効率化に加えて、凝集塊へのダメージを最小限に抑える事により凝集塊の質の向上にも寄与する可能性があり、再生医療の実用化推進に貢献できるものと考えております。

なお、本製品は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「再生医療実現拠点ネットワークプログラム技術開発個別課題」の支援を受けて開発された製品です。


製品写真

PrimeSurface® 96 スリットウェルプレート

全体写真

ウェル部分拡大写真


当社従来品とのウェル構造の比較


PrimeSurface®96 スリットウェルプレート 培地交換の様子


用語の説明

※1.凝集塊

体の外で細胞を培養する場合、平らなシャーレ等の上で細胞を薄いシート上に培養させることが一般的に行われており、平面単層培養と呼ばれます。しかしこの培養方法は、体内で細胞が活動している環境とは大きく異なるため、より生体内の状態に近づけて細胞を培養するために三次元培養法が用いられます。三次元培養法の一つとして、細胞を自然に凝集させて構造化する方法が知られており、できた球形の細胞の集まりが凝集塊(スフェロイド)と呼ばれます。

※2.ハンギングドロップ法

凝集塊を形成させる手法の一つ。細胞を分散させた液を平らな板の底面に少量付着させたとき、重力の作用で付着した液滴の下面が半球状になることを利用して細胞を一点に集め、凝集塊を形成させる手法。

※3.PrimeSurface® 96Uプレート

細胞培養で一般的に用いられる96ウェルのプラスチック製培養容器の各ウェルの底面を、細胞が集まりやすいように半球形状にし、そこに弊社独自の細胞低吸着表面処理を施した製品の名称です。細胞を分散させた液を各ウェルに入れるだけで、細胞がプラスチック表面に付着することなくウェル底の一点に集まり、各ウェル内にサイズの均一な凝集塊が一つずつ形成されます。

※4.SFEBq法

無血清凝集浮遊培養法(Serum-free Floating culture of Embryoid Body-like aggregates with quick reaggregation)の略。国立研究開発法人理化学研究所で開発された凝集塊を用いた培養方法。



関連情報

本件に関するお問い合わせ

住友ベークライト株式会社 ヘルスケア営業本部 バイオ事業開発部
Tel:03-5462-4831    E-mail: s-bio@sumibe.co.jp