文字サイズ

ステークホルダーダイアログ

研究機関との協働が生み出した「グリーンフェノール」

従来、石油を原料として作られてきたフェノール。その製法を革新的に変えるプロセスが、住友ベークライトと研究機関の協働によって生み出されました。非可食バイオマスを原料とする新しいフェノールの持つさまざまなメリットをご紹介します。


長い歴史を持つフェノール樹脂の製法をグリーンに変革する

フェノール樹脂は優れた耐熱性・耐燃性・電気絶縁性・機械特性を持っています。その用途は、鍋などの調理器具の取っ手などで使われ始め、建築材料や電子材料などにも広げてきました。自動車部品では金属の代替として使われて車体の軽量化に貢献しており、航空機部品にもその技術が応用されています。開発から100年以上の歴史を経てなお、産業や暮らしの中で重要な役割を果たす素材です。

フェノール樹脂の原料であるフェノールは、従来、石油を原料に高温・高圧で大量の溶媒を用いる方法で製造されてきたため、CO排出量が非常に多いという課題がありました。その課題を解決すべく生み出されたのが「グリーンフェノール」です。

      グリーンフェノール開発の協働体制

グリーンフェノール開発の協働体制 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)2009~2010年度 委託事業→共同研究 住友ベークライト株式会社 公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE) 2010年 技術研究組合を設立 2014年5月 グリーンフェノール開発株式会社の誕生


グリーンフェノールの実用化が拓く未来

協働が可能にした画期的な製造プロセス

宮内 これまでフェノール樹脂の原料は石油に限られていたのですが、バイオマスを使うことによって原料の多様性を確保できるようになります。また、植物が地中に埋まって石油になるには数百万~数千万年かかりますが、バイオマスは植物の成長にかかる数年~数十年で原料となる点でも、非常に意味があると感じます。
私たちが研究してきた「RITEバイオプロセス」は、微生物を使って、バイオマス由来のグルコースやキシロースなどの複数の糖を同時に利用するというユニークな技術です。また、通常の発酵では微生物の増殖に伴い物質を生成しますが、私たちのプロセスでは微生物を反応槽に高密度に充填して、増殖しない条件で反応させるため、高効率な生産ができることも特長です。通常の発酵では、バイオマスを糖まで分解したときに発生する発酵阻害物質(リグニン由来のフェノール類など)により微生物の増殖が妨げられるため生産効率が下がるという問題があるのですが、RITEバイオプロセスでは微生物を増殖させないため生産性が低下しないというメリットもあります。
公益財団法人地球環境産業技術研究機構バイオ研究グループ グループリーダー 主席研究員 乾 将行氏

公益財団法人地球環境産業技術研究機構バイオ研究グループ 副主席研究員 平賀 和三氏

平賀 フェノールは芳香族化合物の一つで殺菌力が強く、微生物の増殖を阻害したり、濃度が高まると微生物を殺してしまうため、バイオプロセスで生産するのは困難とされてきました。しかし私たち独自の「RITEバイオプロセス」では微生物が増殖せず、原料に含まれる発酵阻害物質の影響を受けないので、フェノールのように通常の醗酵法では生産が困難な物質を作るのに有利なのです。
井上 住友ベークライトは創業当初からフェノール樹脂の製造に携わっていますが、微生物を使ったフェノール生産プロセスという発想は社内にありませんでした。ですから、まったく新しい技術や知見を用いたRITEのプロセスは非常に興味深いものでした。工場の製造現場でRITEバイオプロセスの話をすると、驚きの声が上がりましたね。
平賀 バイオを専門とする私たちと化学メーカーの住友ベークライトという、互いに違う分野の専門家が技術研究組合という形でコラボレーションしたことで、単独では実現しにくかった技術開発が可能となり、バイオマスを利用したグリーンフェノールの基礎技術の確立につながったと思います。

事業化に向けた挑戦で広がる可能性

井上 私たちは民間企業ですから、研究開発だけで終わらせずに事業化を目指します。技術研究組合はあくまで研究目的のものですので、そこから一歩踏み出すには会社組織にして、実用化に向けて取り組んでいこうということになり、2014年5月にグリーンフェノール開発株式会社が誕生しました。
宮内 株式会社化したことで、開発の考え方も、出口を明確にして計画を立て、そこに向けて最短で進むという方向に変わりました。例えば、それまでのラボによる研究開発の延長から、量産設備の建設を前提としたパイロット実証検証にシフトするといったように。事業化という目的に向かって、開発の優先順位づけが明確に変わりました。
RITEは研究所であるという性格上、研究の先にある事業化というステップはなかなか経験できません。今回の株式会社化で、グリーンフェノール開発社への出向という形で住友ベークライトの皆さんと同じ組織の一員となることができ、いろいろと教えていただいたり、お互いの手法を学び合ったりする中で、事業化を目指して一緒に取り組んでいるという気持ちが非常に強くなりました。
住友ベークライト株式会社研究開発本部 コーポレートR&D
			センター主任研究員 井上 雄介

住友ベークライト株式会社研究開発本部 コーポレートR&D
			センター主任研究員 宮内 啓行

宮内  2015年度には静岡工場に開発の拠点を集約し、2016年にはパイロットプラントも稼働しました。これまでフェノール樹脂を量産してきた同工場で開発を行うことで、既存のノウハウやインフラを活用しながら実用化を目指せるという利点があります。
井上 これまでラボレベルでは、従来のフェノールと同等の性能のものが作れています。これを量産する際に、問題なく生産できるのか、また、お客さまの求める品質を満たすことができるかといった課題が発生すると考えられます。それらを一つひとつクリアして、まずはグリーンフェノールで着実に実績を残していきたいですね。
平賀 バイオプロセスでフェノールを作るというのはエベレストを登るような挑戦で、学術界にも産業界にも大きなインパクトがあります。実用化が達成できれば、そのプロセスをベースとして他の多種多様な芳香族化合物の生産にも応用、展開できると予想しています。
グリーンフェノールを生産するプロセスを応用することで、高付加価値な化学品をこれまでより低価格で提供できるなど、新たな市場開拓の可能性も考えられます。他の研究機関や企業が参入しにくい領域だからこそ挑戦して、さまざまな展開につなげていきたいですね。

幅広い産業に向けた環境貢献を目指して

2018年の実用化に向けて、環境に配慮したバイオ由来のグリーンフェノールを量産する技術・設備に磨きをかけることになります。その過程では、私たちが今までの事業で培ってきた知見がさらに役立っていくものと考えています。

グリーンフェノールが実用化すれば、フェノール樹脂を活用しているさまざまな産業に向けて、素材からの環境配慮を提案できるようになります。社会全体をより豊かにする第一歩として、この新しい材料を着実に実用化していきたいと思います。

住友ベークライト長木

  • 住友ベークライト株式会社
    執行役員 研究開発本部長
    長木 浩司

グリーンフェノールの環境貢献

グリーンフェノールのメリット:カーボンニュートラルによってCO2排出量を削減、石油資源への依存度を低減、石油資源からの置き換えによる省エネ化。製品→埋立→サーマルリサイクルで発生するCO2→大気中のCO2→植物は成長過程でCO2を吸収。植物資源[非可食バイオマス](トウモロコシの茎、稲わらなど)→グリーンフェノール。RITEと住友ベークライトの協働でバイオプロセスを確立→樹脂材料→製品に戻る


有識者の声

経産省 井上氏

  • 経済産業省 製造産業局
    機能性化学品室長
    井上悟志 氏

これからの化学産業に新たな可能性をもたらす実用化

2009年度に改正された技術研究組合法では、技術研究組合が解散することなく株式会社へ組織変更することを認めていますが、この制度はなかなか活用さ れてきませんでした。グリーンフェノール開発株式会社はその第1号案件であり、研究開発成果をそのまま実用化につなげるという法律の趣旨に沿った、非常に意義深い取り組みだと思います。

私たちの身の回りの化学品の多くは石油を原料としており、日本の化学産業は石油資源への依存度が高い状況にあります。バイオプラスチックはバイオマスを原料とするため、化学品原料の多様化につながると考えられます。メーカーは、環境面に加えて機能面でも、化石原料由来のものと比べて圧倒的優位性を発揮するような研究開発・用途開拓に取り組むことが大事だと思います。

将来的には、各地域の植生に着目した原料を用いた「おらが町のプラスチック」として、地産地消の取り組みを自治体が応援するなど、新しい化学産業の形にも発展できるのではと期待しています。

パートナーの声

RITE本庄氏

  • 公益財団法人 地球環境産業技術研究機構(RITE)
    専務理事
    本庄孝志 氏

民間企業と連携したからこそ研究成果の実用化が可能に

私たちRITEは1990年から、地球温暖化防止技術に特化した独自性の高い研究を続けてきました。

フェノールの原料として、石油の代わりに植物を使うことは、従来は絶対にできないと考えられていました。それを可能にしたのが、RITEが研究を通じて確立した「RITEバイオプロセス」です。しかし、研究機関であるRITE単独では実用化ができません。ですから、産業界のパートナーとして住友ベークライトと連携し、本格的な実用化のステージへと進めることができるようになったのは、非常に喜ばしいことです。資金的なサポートや試験用のプラント設備など、民間企業だからこそ可能な多くのサポートをいただいて、現在に至っています。

この実用化によって、RITEの研究成果を広く世の中で活用してもらい、地球温暖化防止に貢献できるようになるのは、大変意義深いことです。今後、本格的な事業化が進んで利益を上げ、さらなる新しいチャレンジの礎にできればと願っています。


CSRに関するお問い合わせ、資料請求はこちら。